平成十九年五月八日

「つくる会支援者」各位 

                                「新しい歴史教科書をつくる会」東京支部長    島 崎 隆                                                                                                   東京三多摩支部長    渡 辺 眞                          茨城県支部長    川又和敏

 

謹啓 

 各位におかれましては、日頃より我が国の進路に適切な方向を示そうとご努力下さり感謝しております。本日突然、斯様な文書をお送りするご無礼をまずご寛恕下さいますようお願いいたします。

「新しい歴史教科書」の危機をご存じですか?

 「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が従軍慰安婦問題を契機に発足して早十一年になります。その間二回の採択を経ましたが、「新しい歴史教科書」の採択数は微々たるものとは言え、教育界を始め各界に大きな影響を与えてきた事は既にご承知のことと存じます。顧みますと、ほぼ同じ時期に「救う会」が結成され、「つくる会」ともども救国の国民運動として発展し、ささやかながら国民の健全なパトリオティズムを覚醒させた事には異論はないでしょう

 国際政治情勢のせいもあるのでしょうが、「救う会」の活動が政府に囲い込まれて行き詰まりを見せているかのような印象を受ける昨今ですが、「つくる会」にも同様な暗雲が漂い始めています。

 ご承知のように、これまで「つくる会」に教科書執筆者の選定権は「つくる会」にあり、「つくる会」の理念と意向に基づいた教科書を扶桑社が出版するという取り決めのもとに、すべては「つくる会」の主導で運営されてきました。

 ところが、昨年七月三日に扶桑社は突然、次期教科書の執筆陣の選定を秋にも行うという奇妙な記事を産経新聞に発表し、同月十八日には「つくる会」を正式に辞任した八木氏の教育再生機構の記事が紙面を飾りました。そして九月には、扶桑社が教科書の編集権と執筆者選択権を有していると宣言し、教育再生機構その他から執筆者を選択して新しい教科書を作ると言い出し、「つくる会」を揺さぶったのです。

 これは、十一年続けてきた「つくる会」と扶桑社の、契約に基づく役割分担を白紙に戻し、一切の説明もなく執筆から発行までの全権限を奪い取り、出版権を持たない「つくる会」の弱点につけ込んで、一挙に「つくる会」と「新しい歴史教科書」が築いてきた総ての蓄積を乗っ取ろうとする企てに思えます。間違いなくここには、扶桑社の承知の上での裏切りと変節があります。

 

扶桑社の変節の理由をご存じですか?

 扶桑社のこの変節の意図を窺わせる資料があります。雑誌「アエラ」の昨年七月三日号の記事ですが、「つくる会」を辞任し、「教育再生機構」を立ち上げた前会長の八木氏が「新・つくる会」を結成するという観測記事の中で、教科書作りの方針やそれをバックアップする扶桑社の考えが表明されています。

●「南京事件」や「慰安婦」など論争的な問題に拘らず、歴史をもっと大局的に見た教科書を作りたい。

●朝日新聞に批判されるような教科書は作らない。

●「つくる会」の「新しい歴史教科書」は中国、韓国をいたずらに挑発し、両国に反発される極端な教科書。

●従って教育現場からも支持されない教科書。

●扶桑社は「新しい歴史教科書」の採択が伸びず大赤字を抱えている。

●次回の採択を考えると教科書の改善が必要だが、今の「つくる会」では無理。

●フジサンケイグループは、内紛続きで主張が過激な今の「つくる会」と組んでいてはイメージが悪くなる。

 この記事を読む限り、扶桑社は、赤字を解消をするためには「新しい歴史教科書」の採択率を上げ、発行部数を増やさねばならないと考え、それには教育現場の支持を得やすくする為に、内容を他の教科書のように自虐的に改善すれば良いと読み取れますが、果たして変節の理由はそれだけでしょうか。

 「つくる会」の運動が日本を「普通の国」に変えるエンジンと察知した中国、韓国やアメリカからの常軌を逸した内政干渉による圧力を怖れ、日中間の路線を修正する安倍政権のレジームチェンジを予測していち早く政権に迎合したブレーンと名乗る特定の言論人の政治的判断が、扶桑社の変節の大きな原因ではないでしょうか。

 この記事から一年も経たない内に、日本は南京問題、慰安婦問題で困難な状況に追い込まれているのです。日本が論争的な問題を避けたからと言って、中国や韓国も避けてはくれないのです。それどころか、アメリカ議会を利用する挙にさえ出ました。論争を避けるならば謝罪しかありません。謝罪を積み重ねて、どうして日本の歴史の素晴らしさを伝えるなどと言えるのでしょうか。

 国民の歴史観は、ときの政権の一時の思惑や政策に振り回されるべきではありません。

歴史は外交から自立していなくてはなりません。

保守の運動を潰すのは左翼ではなく保守

 「つくる会」はこの扶桑社に対して昨年十一月二十一日に、「教科書の継続発行に関する申し入れ書」を出して従来通りの関係に戻すよう要請しました。これに対し扶桑社からの回答が届いたのは、去る二月二十六日でした。その内容は、「つくる会」が八木氏の「教育再生機構」との協働をはっきりと拒否したことを受け、教科書発行の別法人を立ち上げ、新しい教育基本法に沿った教科書を発行する、と言うものでした。

 教育基本法はどんなに大切でも、歴史教科書の描く国民の歴史は、不完全な改正にとどまった教育基本法とはまた別個の原則に基づくものではないでしょうか。基本法が歴史を決めるのではなく、歴史が先にあるのです。

 その後、扶桑社の意向を受けて屋山太郎氏が「教科書改善の会」を立ち上げました。

正式名称は「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」だそうですが、基本方針として、現行版(新しい歴史教科書)の大幅改訂による内容一新を図り書名も変更する、としています。

 「つくる会」潰しに失敗した扶桑社は、「つくる会」に絶縁状を叩きつけて出版の道を塞ぎ、その代わりに「新しい歴史教科書」を「改善」することで、今までの教科書を潰す挙に出たのです。

この十年、日本に健全なパトリオティズムをもたらした「つくる会」の運動は、外圧を怖れ、政治に従属して、束の間の安泰と権力に目が眩んだブレーンと称するある特定の勢力によって抹殺されようとしています。

 

 普段は憂国の言論で私たちの心を惹きつけている諸先生が、今の情勢をつらつら見ると、「つくる会」と「新しい歴史教科書」潰しに手を貸している結果になるのは明らかで、この国の将来に絶望を感じざるを得ません。諸先生方は、はたしてこの様な状況がお分かりになっているのでしょうか。

「つくる会」潰しの謀略に批判の声を挙げてください

 問題は、今回の扶桑社と「つくる会」の遣り取りを、単なる内紛と歪曲したり、保守は大同団結すべきなどと政治判断を持ち出す人達が多いことです。この儘では「つくる会」の運動が国民に示した真っ当な歴史観は圧殺されてしまうでしょう。歴史認識で今後も日本は言われ無き非難と侮辱を世界から浴びせられる苦難の道を歩まざるを得ません。これに対抗し自尊心を国民が維持し続けるには、ささやかながらも一度は国民が手にしたナショナリズムを持続させる事が肝要ですが、その為にも「つくる会」と「新しい歴史教科書」を守り通さなければならないと思うのです。

保守の運動を潰そうとするのは左翼ではなく保守なのです。

これらの保守の仮面を剥がし国民の蒙を啓くことでしか、このささやかな希望は生かされないのです。

 「つくる会」もこの侭、手を拱いているわけではありません。

「新しい歴史教科書」が国民の歴史観として定着するよう更なる工夫を怠らず、「つくる会」の理念に共鳴し、真に子供達の将来を憂う新しい出版社の協力を得る準備をすすめています。

私たちは次の採択に向けて着々と新しい手を打っています。

 どうか各位におかれましては、私たちの事情をお察しいただき、ご支援を賜りたく緊急に一筆申し上げた次第です。終わりに、ますます厳しさを増す日本の舵取りに、適切な公論を以て御尽力下さいますよう、衷心から願うものであります。

                                                                                     謹言